突然投下、謎のショートストーリィ第2弾

「うぎゅ」
 月曜日の朝、梓沢可純(アズサワ・カスミ)は混雑した電車の中で、人と人にはさまれ、情けないうめき声を上げた。
 ――まいったなぁ、もう……
 いつもならラッシュアワーを避けてもっと早い時間に登校しているのだが、今日は諸般の都合で普段より遅くなってしまい、結果がこの有様だった。
 車内は様々な制服の高校生、私服の大学生であふれ返っている。少ないながらも社会人もいることだろう。
「むぎゅ」
 電車が揺れ、また圧迫される。
 しかし、まだ乗り換えたばかりで、ようやくひとつめの駅。学園都市はもうみっつほど先だ。
 幸い次は比較的大きな駅で、降りる乗客も多い。尤も、降りるのが多ければ乗るのも多いのだが、可純はその入れ替わりの隙にもっと楽に立てる位置を確保しようと目論んでいた。
 やがて電車が駅に着いた。少なくない数の乗客がホームに吐き出され、車内の人口密度がぐっと下がった。可純はそのタイミングを狙って奥へと進む。
 が、
「わっ、ぷ……」
 しかし、人の流れの変化は思っていたよりも速く急激で、可純は新たに入ってきた乗客の波に押され、挙句、人にぶつかってしまった。しかも、抱きつくようにして密着した構造だ。
「す、すいませんっ」
「あらあらあら、可純くんじゃないですかぁ」
 のんびりした声に己の名前を呼ばれ、顔を上げれば目の前には見知った顔があった。
「へーさん?」
 ナチュラルストレートの長い髪に、ぱっちりした目。ふんわりした雰囲気をもつ少女は、クラスメイトの入江英理依(イリエ・エリイ)だった。
「はーい。へーさんです」
 彼女には「エリィ」という洒落た愛称があるのだが、可純は「へーさん」と呼んでいる。というか、呼ばされている。きっかけはちょっとした事故なのだが、英理依はそれがいたく気に入ったようで、以来、可純はそう呼び続けるよう強制されているのだった。
 彼女は今日も嬉しそうに返事をする。
「朝から痴漢行為ですか。大胆ですね」
「ち、ちがいますっ」
 可純は慌てて英理依から離れた。が、混雑した電車の中ではあまり間をとることはできず、あいかわらずの至近距離だった。可純も英理依もともに小柄で同じくらいの身長なので、吐息がかかりそうなくらいに顔が近い。
「朝からって……、昼でもそんなことしません」
「じゃあ、夜? それはそれで特殊な趣味というか、楽しみ方というか……」
 何やら照れて顔を赤くしながら、掌を頬に当てる英理依。可純はそれを見てげんなりした。
「それより、なんでへーさんが電車に?」
「もちろん学校に行くためですけど」
「じゃなくて、へーさん、寮生でしょ」
「はい」
 因みに、女子寮B棟です――と英理依。
「そりゃそうだろうね。男子寮だったらびっくりだ」
「びっくりどころか、楽しそうですよね。周りは男の子ばかりですから」
 またも赤面して頬を押さえる。今度は反対の頬と手。いったい英理依は頭の中で何を想像しているのだろうか。考えるだにおそろしい。
「いや、だから、寮生なら電車に乗らなくていいはずじゃない?」
 翔星館高校の学生寮は、裏門を出て道を挟んだ向かいの敷地にある。女子寮が2棟、男子寮が1棟。かつて女子高だったころは実家から通えない生徒は寮に入るのが決まりで、生徒ふたりにひと部屋が割り当てられていた。だが、共学校になってからは寮に入るのも自由となり、今ではひとりひと部屋でも十分に足りている。男子生徒の数も未だ全体の3割弱で、男子寮も同様である。
 可純が知る範囲では、この英理依と音楽科3年の相坂恭一郎(アイサカ・キョウイチロウ)が寮生で、親友・村神耀子は寮以外でのひとり暮らしだ。
「ああ、そういうことですか」
 可純に言われ、英理依が、ぱぁっ、と顔を輝かせた。決して頭の回転が遅いわけではないのだが、時折おかしな方向に行くようだ。
「実は週末、実家に帰っていたんですよ〜」
「あ、なるほどね」
 つまり、今日は実家から直接の登校らしい。これだけのことを聞くのにずいぶんと遠回りした気がする。可純はどっと疲れた。
「それにしても、すごい混みようです」
「うん。ボクもこれが嫌でいつもはもっと早いのに乗ってるんだけどね」
「ちゃんと降りれます?」
「『ら』が抜けてるよ。大丈夫じゃない? 学園都市でごっそり降りるはずだから」
 そんなやり取りをしているうちにふた駅分に距離と時間は縮まり、車内に間もなく学園都市に到着する旨のアナウンスが流れた。乗客の意識が出口へと向く。可純も鞄を持ち直し、体をそちらへ向けた。
 と、そのとき、可純の手をやわらかい感触が包み込んだ。英理依の手だ。振り向き、彼女を見る。
「おいていかないでくださいね」
「ま、まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うけど」
 思いがけず握られた手にどぎまぎする。
 程なくドアが開いた。
 乗客がいっせいにそちらへと流れていく。
「あっ」
 英理依の小さな悲鳴を聞いた気がするが、今さら止まることはできないし、止まること自体むりだ。
 流れに乗って可純と英理依はホームの転がり出た。
「あー、つっかれたー……」
 この感覚は登校初日以来だ。あのときも今日と同じような目に遭い、それをきっかけに早い時間の登校を決意したのだ。
 ふいに英理依が足を止め、遠慮がちに口を開いた。
「あのー、可純くん? 実は鞄が中に……」
「はい?」
 可純は彼女を見る。手ぶらだ。思い返せば中で立っているときから、手には何も持っていなかったように思う。続けて電車を見た。一転してがらんとした車内。網棚に上には確かに翔星館高校の制鞄がひとつあるのが見えた。
「取ってくるっ」
 言うなり可純は地を蹴った。
『間もなくドアが閉まります。危険ですので駆け込み乗車は――』
 アナウンスを聞きながら車両に飛び込む。中でも似たようなフレーズが流れていた。時間がない。
 手を伸ばして網棚から鞄を引きずり下ろした。
 そして、反転。再度駆け出す。
 だが、
「……」
 無情にもドアは可純の鼻の先をかすめるようにして閉まった。
 揺れ、動き出す電車。
 外を見れば、なぜか英理依がハンカチを振っていた。楽しそうだ。
「……思わず茫然自失する可純くんなのです……」
 つぶやく可純を乗せ、電車は加速していく。
「って、そんなこと言ってる場合じゃなくてっ」
 可純は携帯電話を取り出した。
「入江、入江……。あれ、ない? あぁ、ハ行か」
 多少手間取りながらもメモリィから英理依の名前を見つけた。電話をかける。すぐに彼女ののんびりした声が返ってきた。
『あらあらあら、今別れたばかりなのに、何か用ですか?』
「別れたくて別れたんじゃないっ」
 がー、と可純は口から火を吹いた。
「とりあえず、へーさん先に行ってて。ボクは次の駅で折り返すから。朝のホームルームはむりかもだけど、一時間目には間に合うと思う」
『あ、急がなくても大丈夫ですよ。わたしの勉強道具は寮の部屋にありますから』
「……」
 じゃあ、この鞄は何のために持ってて、何が入ってるの? 軽い。が、何も入っていないわけではないようだ。
「いちおーボクも遅刻はしたくないからね。急いでいくことにするよ。……うん。じゃあ、教室で」
 可純は通話を切った。
 脱力して倒れるようにシートに腰を下ろす。
 周りを見ればさっきまでの混雑ぶりはどこへやら、嘘のように空いていた。いつも乗っている早い時間でも、ここまでではない。
 ――まだ朝なのにぃ
 あわただし過ぎる一日のはじまりに、可純の口からため息がもれた。

 
そんなわけで前回の「可純くんと耀子」に続き、第2弾「可純くんとへーさん」でした。
 

本日のweb拍手レス〜♪(9日13:30までの分)

−8日−
12時〜

わずか四センチ弱の穴が装甲に空いただけで轟沈するノイエさん……シュール過ぎる。そんな光景見せつけられれば抵抗する気もなくなります。まあ白馬の王子様も出番もなく用済みですが。でも五飛あたりは頑張るんだろうな。原作の感じだと……。

 まぁ、機関砲ですからね、きっと蜂の巣にするのでしょう。「早く私を殺しにいらっしゃ〜い」を真に受けてのこのこ出ていったら、逆に殺されそうです(笑 さすがガンダム史上最強のヒロイン、ナンバー2! 五飛は……経験値稼ぎの道場と化しています(何
18時〜

なら合体させて「てしぃーちゃん」とかどうよ?

 なんかもう最凶アルティメット合体って感じなんですけど……(汗
20時〜

今日の朝にいつも通り遅刻ギリギリだな〜間に合うかな〜って思ってチャリぶっ飛ばして最初の十字路曲がってを曲がってあれなんだ?って思って…あれ?……猫が……orzってことがありまして(泣)

 猫はね、咄嗟のときでもバックができないから……。遅刻しかけでも手を合わせてあげましょう。そして、加害車は事故っちゃえ、と。
21時〜

猫といえば十月に電撃から『ねこシス』が単行本化。人に化けれるようになったトラ猫美緒の人生お試し物語です。面白いというか、とにかく美緒が可愛い+ネコからみた人が面白いです。

 コメント、編集させてもらいました〜。そういえば前にも話題に上がってましたね。とうとう単行本化ですか。せっかくなので買ってみようかな? 10月の買いものリストに入れておきましょう。楽しみです。

この日記を猫で埋め尽くす気ですか? えっと・・・・・うーちゃん?

 なに、その素敵日記!? あと、毎度毎度違う愛称で呼ぶのヤメレ(笑
 
−9日−
0時〜

工エエェェ('д`ノ)ノェェエエ工

 いや、そんなに驚かなくても……(汗
1時〜

ネコ類補完計画とは…人々が失っているもの、「喪失した心」。その心の空白を埋める、心と魂の補完をネコでやってしまおうという壮大な計画ですにゃー(ΦωΦ)

 えっと……なにやら難しそうな話ですが、とりあえず猫を撫でよう愛でようキャンペーンと思っていたらいいですか?(何

展開が微妙になってきた気が…

 展開が、というよりは、九曜の創作力が、ですねー。
7時〜

どうしてそんなに「○ーちゃん」にしたいのか…。うーん、やっぱり九曜さんは「○ーちゃん」なイメージなんですよ。それとも「○ーたん」の方がいいですかw?

 やめるんだ、そのイメージは危険だ。悪いことは言わない。今すぐ捨てるんだ!(何

それじゃあ普段とは逆に…月子さん!!僕に九曜さんをください!w

 月子「どうぞどうぞ。そんなものでよかったら、いくらでも持っていってください。私も扱いに困っていましたので」
9時〜

"可純くん"ということは男の子だったんだ 女の子と思い込んでた私はいったい??

 実は『通称・可純くん』なのですよー。