突然投下、謎のショートストーリィ

最近暇を見てはローカルに書き溜めているガールズラブ(っぽい/っぽく見える)小説のSS。
とても中身のない内容です。
 

 梓沢可純(アズサワ・カスミ)が朝起きて、寝巻きから部屋着に着替えた丁度そのとき、ベッドの枕元に置いた携帯電話が着信メロディを奏で出した。メールではなく電話だ。
 手に取り、サブディスプレィを確認する。クラスメイトであり親友である、村神耀子(ムラカミ・ヨウコ)からだった。
「もしもし?」
「可純? おはよう」
 通話ボタンを押して電話に出ると、耀子のテンションの低いハスキィボイスが耳に入ってきた。
「どうしたの、こんな朝から」
 いったい何の用だろうかと考えてみる。課題を見せてほしいから早く学校に出てこいとでも言うのだろうか。いや、耀子に限ってそんあことはない。それに課題など出ていないはずだ。
「朝、もう食べた?」
「朝ごはんのこと? まだだけど?」
 可純は問われるまま答えた。
「そう。じゃあ、一緒に食べない?」
「えっと、……どこで?」
「学園都市のパン屋」
 電話の向こうの耀子が平坦な声で言う。
 ああ、あのパン屋か――可純はすぐに思い当たった。2階に喫茶店のようなテーブル席があり、学校の帰りに何度か耀子と一緒に寄ったことがある。しかし、食事をするというよりはそれこそ喫茶店のような感覚で、もし本当の朝食を食べるならこれが初めてということになる。――でも、なんで?
 返事を後回しにして考え込んでしまっていたため、沈黙が生まれていた。
「……嫌ならいいわ」
「わー、待って待って! イヤじゃないからっ。……えっと、今から行けばいい? ……じゃあ、店の前で」
 すぐに話がまとまる。可純は登校の準備を整え、朝食抜きで家を出た。
 最寄の駅から電車に乗り、途中で一度乗り換えて学園都市へ。いつもより30分ほど早い。
 学園都市はいくつかの高校、大学、専門学校などの教育機関や、研究機関が集積された街なので、可純が通う翔星館高校のほかにも、いくつかの制服が見られた。全国的にも有名な水の森高校、お嬢様学校の茜台高校、等々。
 駅は小さな駅ビル(といっても2階までだが)になっていて、表からよく見える吹き抜けのところにそのパン屋はあった。
 そして、その前に女子生徒がひとり。
 背が高く、プロポーションのよい体。ツーサイドアップの髪に、少々キツい造作ながら大人っぽく人目を引く端整な相貌。明るい赤のチェック柄スカートにネクタイ、紺のブレザーという翔星館高校の制服を悪っぽく着崩しているが、それがまたよく似合っている。
 村神耀子だ。
「耀子」
 可純が手を振り、小走りに駆け寄る。耀子は片手を軽く挙げて応えた。
「おはよう」
「それはさっき聞いた」
「いや、それはそうだけどさ。だからって他に適当な言葉もないし」
 可純の口から苦笑いがもれる。
 が、
「ああ、もういいや。それより早く入ろう。ボク、お腹へってるの。いつもならとっくに食べてる時間なんだから」
 すぐに待ちきれない様子でパン屋の自動ドアへ向かった。耀子も「はいはい」と、やわらかい笑みをわずかに浮かべ、その後に続く。
 ふたりは中に入ると、さっそくトングとトレイを手に取った。壁面の棚や中央の平台の上に、色とりどりのパンがところ狭しと並んでいる。可純はあれこれと迷った末に、そこから2つほどを選び取ってトレイに乗せた。レジを見るとすでに耀子が清算の最中だった。何をするにも決断が早い。
 可純もレジへ行き、店内で食べることを告げて、ついでにアイスカフェオレも注文した。
 目指すは2階。親友を待つ気のさらさらない耀子を追って、可純も階段へ向かう。が、思いついてその足を止めた。
「可純、どうしたの?」
 気配でそれに気づいた耀子が、階段の途中で立ち止まり、振り返る。
「や、なかなかきわどいなぁ、と思って?」
 心なしか首が傾いている可純。
「あんたねぇ……」
 すぐに耀子もその意味に気づくが、しかし、両手はトレイを持ってふさがっている。可純の目には耀子のすらりとした長いきれいな足が映っていることだろう。それもかなり上のほうまで。
「……可純」
 耀子は釣り目気味の目を、細く鋭くした。
「うに?」
「早く上がってきなさい」
 そして、かたちのよい顎を、くい、と動かし、促す。
「はぁーい」
 まさに顎で命令され、可純はちろりと舌を出してから階段を上りはじめた。あまり幅が広いとはいえないその階段を、ふたりで並ぶようにして2階へ上がる。
「耀子耀子、窓際があいてる」
「見たらわかるわよ」
 苦笑する耀子を可純が追い抜かしていった。トレイをテーブルに置き、窓側に座る。鞄は通路側のイスの上へ。耀子もその向かいに腰を下した。
 全面窓から外を見下ろせば、改札口方面からの人の流れが表へ出て、それぞれの行き先に散っていくのが見える。
「でさ、なんで急に朝ごはん一緒に食べようなんて言ってきたの?」
 可純は袋を破って取り出したストローを、カフェオレのグラスに突っ込みながら訊いた。向かいでは耀子が、アイスコーヒーにクリープをたらしている。
「気まぐれよ。食べるからついでにと思って誘っただけ」
「いや、朝ごはんって毎日食べるじゃない?」
「そう? 私は毎日じゃないわよ」
「……」
 可純は黙ってカフェオレをストローで吸い上げた。
 微妙な空気だ。
 これはどこからくるのだろう、と可純は思った。食生活の違いといった単純なものではなく、もっと別の温度差による空気の断層だろうか。
「じゃあ、なんで今日は?」
「昨日の夜、食べなかったから」
「前の晩に食べたときは?」
「食べない」
「……」
「……」
 またしても沈黙。
 ただし、理解の領域を超えたものを目の当たりにして眉根をひそめているのは可純だけで、耀子はしれっとしている。
「なんて生活だい」
 よくもまぁそんなテキトーなことで高校一年にしてそのプロポーションになり、且つ、維持できているものだと呆れた。
「うるさいわね。ほっときなさい」
 耀子は面倒くさそうに言い、パンを食べ出した。ひと口サイズに千切って食べるその仕草は上品で、行き当たりばったりの食生活を微塵も感じさせない。むしろ育ちの良ささえ窺えた。
 可純も食べはじめる。一瞬、耀子を真似て上品に食べてみようかと思ったが、結局いつものように直接かぶりつくことにした。
「でもさ、昼はちゃんと食べてるよね?」
 毎日可純と一緒に学生食堂で、お決まりの日替わりランチ。女の子にしては多いかもしれないが、よく食べるというよりは、しっかり食べるといった印象だ。
「可純がいるからね」
 耀子は努めてなにげないふうを装い、答えた。可純を見ないように、不自然にならないように、パンを食べ続ける。
 可純はふと、待てよ――と思った。
「この前さ、ボクが休んだというか、昼休みにいないときがあったじゃない? あのときは?」
「……食べなかった」
 ひと目盛り分ボリュームを絞った声。
「うわ。ほんっといいかげん」
 可純は呆れながら嘆息した。テーブルの上があいていたら突っ伏していたかもしれない。
 ふたりは食事を再開した。
「おっと、樹里はっけーん」
 程なく、可純が窓の外を見て嬉しそうに声を上げた。耀子もそちらに目を向けると、眼下をクラスメイトの遊佐樹里(ユサ・ジュリ)が颯爽と歩いていた。
 高校受験を機に引退した元アイドルという経歴をもつ彼女は、登校する高校生の集団の中にあっても、ひとりだけ輝くものを秘めているようで、不思議と目を引いた。
 樹里は後ろから駆け寄ってきた友人と言葉を交わし、一緒に歩いていった。可純はそれを見送ってから、再び耀子に顔を戻した。
「耀子ってひとり暮らしだったよね?」
 確認するような問いかけ。
「ん。まぁね」
「いいかげんな食生活はそのせい……ってわけじゃないよね」
「性格でしょ」
 耀子はまるで他人のことのように、さらりと言ってのけた。
「ちゃんとやれてるの?」
 何でもできる耀子のことだから大丈夫だと思うし、ただ単に食欲というものが希薄なだけとは思うのだが。
「気になるなら、一度くる?」
「う。それはそれで興味あるけど、ある意味では怖いもの見たさ、みたいな?」
 天井に目をやりながら首を傾げる可純。
「……ま、別にいいけど」
 耀子は不貞腐れたように小さくつぶやいた。
 と、そのとき、
「あっ」
 可純が全面窓のガラスに両手を張りつかせ、顔を寄せた。また見知った顔を見つけたのだ。だが、樹里のときとは目に見えて反応が違う。
「先輩だっ」
 翔星館高校でも類稀なる美少女として有名な最上級生。制服をファッショナブルに着こなした彼女は、艶のある蜂蜜色の長い髪をなびかせ、改札口方面から歩いてくる。足もとは学校指定の革靴ではなく、いつもの校則無視のバッシュだ。
 が、ふいにその足が止まった。きょろきょろと辺りに目をやりはじめる。後ろからきた知り合いが「おはよう。どうしたの?」と声をかけた。「なんでもない。先に行ってて」。
 そして、彼女はゆっくりと視線を上げ――、
 可純を見つけた。
 にっこりと笑い、小さく手を振る。可純も嬉々として振り返した。
「ゴメン。ボク、先に行く」
 可純は半分ほど残っていたふたつ目のパンを口の中に放り込み、カフェオレで流し込んだ。
「行儀悪いわね」
「いーのっ。……じゃあね」
 鞄を引っ掴み、駆けていく。
 耀子はその後ろ姿に、大きな耳と尻尾を見た気がした。あの子は犬か――。
「まったく……」
 むっとしてため息を吐く。
 ふと見ると、可純が座っていた席にトレイが残されていた。
 またさらに腹が立った。

 

簡単な補足

−登場人物−
・梓沢可純
 本作品の主人公。通称“可純くん”。
・村神耀子
 可純のクラスメイトで親友。
・先輩
 (たぶん)本作品のヒロイン。可純が憧れる先輩。
・遊佐樹里
 可純のクラスメイト。
 
−舞台−
・翔星館高校
 学園都市にある高校。もとは女子高だったが、3年前に共学校に。未だ男子生徒は全体の3割弱。
 

本日のweb拍手レス〜♪(29日14時までの分)

−28日−
12時〜

頑張れ弓月君!!

 いや、ほんと、まったくです。もうちょっと頑張れと(笑

やきもちやくキリカがかわいいですv

 ありがとうございます! 女の子のキャラはどんなシーンでもかわいく書きたいですね。
22時〜
>>ペソ氏
 またおそろしい予想を(笑 まぁ、すでにそんなところがありますが(ぇ 奈っちゃんは、登場直後にサイドストーリィでも何でも、ずんどこ活躍させればよかったんですけど、本編が佳境に入っていたせいか、そうするタイミングを逃してしまったんですよね。

空の境界DVD一巻のつもりで買ったら二巻だった… 何巻か番号書いといてくれよ…

 どこかに「第一章」とか書いてません? ……見た感じ、書いてないっぽいですね(汗 まぁ、いいじゃないですか。全部買い揃えるなら、ダブらない限りは最終的に一緒ですよ。
 
−29日−
0時〜
>>T-BOLANの歌詞の方
 そう言ってもらえると嬉しいです。ラブコメ小説なんて、じれったくてなんぼですから(ぇ とは言え、弓月くんのはっきりしない態度も困りものなので、そろそろなんとかしないと。

一気に読み切りました。更新を楽しみにしています

 ありがとうございます。こんな作品に時間を割いてくださり、ありがとうございます。続きは、できるだけ早く出せるよう頑張ります。
12時〜

猫カイザーと戯れる翔子ちゃんも追加希望です

 暴れてるのと和んでるのとが入り混じって、もうめちゃくちゃですね(笑