可純くんショートストーリィ第3弾

久しぶりにガールズラブ(っぽい)小説、『可純くんショートストーリィ』を書いてみました。
ローカルに書いている本編がぜんぜん進まないんですけどね。
 

 休み時間。
 梓沢可純(アズサワ・カスミ)の後ろはいちばんの友人、村神耀子(ムラカミ・ヨウコ)の席だけど、今はそこに別のクラスメイト――遊佐樹里(ユサ・ジュリ)が座っていた。
「夏って日に焼けるからイヤだ」
 彼女は机の上に肘をつき、毛先の少しウェーブした青みがかった銀髪を指でいじりながら、不満をもらした。因みに髪はショートカット。
「樹里、肌が白いから日に弱そう」
「そう。弱いんだ。昔もそれでけっこう苦労した」
 ここで言う昔とは、彼女が芸能活動をしていた頃のこと。
 樹里は、その人を惹きつける魅力あふれる美貌とスタイルのよさを武器に、中学生の頃からモデルをしていた。そのときから同世代に絶大な人気があったが、さらなる飛躍の契機はとある日本人映画監督が彼女に目をつけたことだった。与えられたのは単なる話題作りのための端役で、映画も大コケにコケたものの、劇中で歌手役を務め、主題歌を歌った樹里は世間の注目を浴びることとなった。こうして遊佐樹里はモデルからトップシンガーへと華麗に転身を遂げる。
 しかし、高校受験を理由に、あるとき突如として引退を宣言。芸能界から一瞬にして消え去った。
「樹里、クォーターだったっけ?」
 可純は樹里の白い肌を見ながら尋ねる。逆に、可純は日本人にしては色が濃いほうだ。
「そ、ロシア。ハーフの親はそうでもないのに、わたしのこの髪は隔世遺伝みたいだ」
 樹里は自分の前髪を見ながら、指にくるくると巻きつける。手を離せば勢いよく戻るのは、手入れを怠っていないからだ。彼女はこの髪が好きだった。
「隔世遺伝かぁ。じゃあ、ボクもそうかな?」
「可純が? なぜ?」
「うん。実はボクのルーツは、遡ればフランスとカンボジアに行き着くんだ」
 どことなく自慢げな可純。
「初耳」
「わざわざ自分から言わないから」
「コンプレックス?」
 樹里は少し心配顔で問うた。
「ううん、逆。すごいぞ、ボクのおばあちゃん。フランス人とカンボジア人のハーフで、若いときの写真を見せてもらったけど、超美人。肌は褐色なのに、西洋っぽい顔立ちで不思議な感じ。きっと樹里より美人だよ」
「はは。言うなぁ、おい。今度見せてもらおうかな」
 樹里は笑い、そして、安心した。
 心配していたのだ。可純に自分のルーツについての引け目があるのではないかと。もしかしたら周りに何か言われた過去があるのかとも思った。日本人には、欧米諸国と比べたとき無意識にアジアの国を下位に見るところがあるものだ。しかし、どうやらこの友人はそうではないらしい。むしろ誇りを持っている。同じく異国の血が流れているものとして、樹里はそれが嬉しかった。
「まぁ、後は生粋の日本人の血ばかり取り込んで、もう薄まりまくってるけどね。でも、考えてみたら、ボクの肌の色っておばあちゃんに似てるのかも。だから隔世遺伝かな」
「そっか。実はいつか言おうと思ってたんだけど、わたしは可純の肌の色ってけっこう好きだ。薄いオリーブ色できれいだし。それに――」
 樹里は手を伸ばし、ぴっと可純の口許を指さした。
「唇がピンク色でかわいい」
「むぅ」
 言われた可純は、樹里の言うところのかわいいピンク色の唇を、かわいらしく尖らせた。『かわいい』は可純にとってNGワードなのだ。
 樹里は指で可純の唇にちょんと触れた。そして、今度はその指に、
 chu!
 と自分で口づけ。
「間接キス」
「ちょ、樹里……っ」
 あわてる可純。
「新発見。赤くなってもきれい」
「あのねぇ……」
 と、そのときだった。
「あ」
 可純が小さく発音した。その視線は樹里の頭上へ。
「なに? 何かあるのか?」
 つられて樹里も、背もたれに体を預けて仰け反るようにして真上を見た。
「うわあっ」
 そこにこの席の主、村神耀子が立っていた。
 ただでさえ迫力美人の耀子が、冷たく静かに見下ろしている姿はたいそう怖いものがあった。
「何やってるの、樹里。そこは私の席、それは私のもの」
「いーや、わたしはこの際、クラスの共有財産だと主張したいね」
 横で聞いていた可純は、どちらの主張も正しいと思った。そこは耀子の席だから耀子のものだと言えるし、学校の備品なのだから共有財産だとも言える。
「というか、本人わからないと思って、堂々と所有権を主張するか、普通?」
 本人って何だ? 机? 可純は首を傾げる。
「うるさいわね。いいからどきなさい」
「はいはい。まったく」
 結局、耀子には勝てないと思い、樹里が折れた。彼女は降参とばかりに両手を上げ、そうしてから立ち上がった。
「じゃあね、可純」
 そう言い残して去っていく。
 代わりに席には本来の主が腰を下ろした。
「可純も可純。黙ってあんなことやらせてんじゃないの」
「普通すると思わないって」
 可純は苦笑する。
 耀子はそんな可純の顔を思わずじっと見つめていた。正確には顔のある一部なのだが。
「ん? なに?」
「な、なんでもないわ」
 そこでチャイムが鳴った。
「ほら、前を向く」
「いや、まだ鳴ったばかりじゃんか」
「いいから」
 なんだかよくわからないまま強引に前を向かされた可純だった。

 

登場人物

梓沢可純:主人公。通称、可純くん。那智くんと静くんを足して2で割ったようなキャラ。
村神耀子:可純くんがクラスで最も仲のいい友人。迫力美人のチョイ悪美人さん。
遊佐樹里:可純くんのクラスメイト。元アイドル? ロシア人とのクォーター。
 
入江英理依:通称、エリィ。へーさん。今回は登場してません。
 
だいぶキャラが固まってきたかな、と。
樹里なんて今回が初書きだし。
 
他にも書くに当たってテーマとか課題があったのですが、時間切れで書き切れませんでした。
 
 
そんなわけでもう出かける時間なので、拍手コメントへのレスはまた明日まとめてしたいと思います。